キャリーケース以外全部沈没
ウンスからの連絡が急に減った。
屋敷に泊まった二日後からだった。
LINEでのやり取りが減り、
電話を掛けても、留守番電話に代わってしまう事が多くなった。
避けられているような気がする。
原因が分からなかった。
俺の屋敷で何かあったのか?
明日はウンスが休日の土曜だと言うのに、行先もまだ決まっていなかった。
俺は仕事を中断し、ウンスのマンションへ行ってみる事にした。
何か胸騒ぎがしていた。
学会に行った次の日の夜に、玄関のチャイムが鳴った。
チェーンは開けずに、少し玄関の扉を開けて対応する。
「KN週刊誌の者なのですが。」
KN週刊誌?
芸能人のスキャンダルなんかを取り上げている?
「ユ・ウンスさんですよね?チェ財閥の御曹司と深い仲というのは本当ですか?
海にデートに行ったとか・・御曹司の屋敷に泊まった情報を掴んでいるのですが・・。
何処で知り合ったのですか?
もう結婚は決まっているのですか?」
一方的に畳み掛け話しかけてくるこの人が怖くなった。
「い・・いえ、付き合っていません。」
「しかし、海でキスをしていた写真を入手しまして・・。」
男は封筒の中から写真を出して、私にそれを見せた。
確かに私と彼だった。
何処から撮ったのか。
あの場所には私達と警護の人しかいなかったような・・。
でも、海際の駐車場には沢山の車が止まっていた。
その中に記者さんが?
「御曹司と一般女性医師の熱愛。
スクープなんですよね。
顔はモザイクを掛けますので、インダビューをさせて頂けませんか?」
どうしよう。
私の所為で、あの人に迷惑がかかってしまう。
「本当に会っていません。お話しする事は何もありませんから。」
そう言って私は扉を閉めて鍵を掛けた。
「ユさん!少しだけお話を聞かせてくださいよ!」
記者が扉を叩いている、
暫くしてから帰ったけど、その日から何度も記者が来るようになった。
仕事の帰りにマンションの前に待ち伏せされた。
私は怖くて、走ってマンションに入る。
家に入り、鍵を閉めた。
それでも、怖くてなかなか家の電気を付けられなかった。
そのうちきっと諦める。
私が我慢すれば何とかなると思った。
あの人に迷惑を掛けたくない。
だから、もう連絡も取らない方がいいと思った。
私からはLINEもあまり送らなくなった。
あれから4日が経った。
記者の人は毎日、私の家の扉を叩いた。
マンションに帰りたくなかった。
今日は何処かに泊まろうか。
でも、仕事を終えた私はいつも通り家に向かっていた。
遠くから記者が見えた。
その記者が私とは反対方向に歩いて行くのが見え、私は走ってマンションの中に入っていく。
エレベーターに乗って、3の数字を押す。
エレベータの中でも息を潜めて震えていた。
やっぱり何日かホテルに泊まろう。
私は急いで荷物をまとめた。
玄関の扉を叩く音がする。
怖い。
スマホまで鳴り出した。
職場も知られているみたいだし、電話番号も、もしかしたら・・。
スマホも、荷物の中に押し込んだ。
取り敢えず諦めるまで待って、帰ったら家を出よう。
電気は付けずに暗い部屋で膝を抱えて震えていた。
不意にチェ・ヨンさんの声が聞こえた。
「ウンス!ウンス!」
扉の外からチェ・ヨンさんの声が聞こえる。
週刊誌の人は?
帰った?
私は、チェーンは掛けたままそっと扉を開けた。
そこには彼と、後ろには警護の人が何人か居た。
「扉の前に居た男は誰だ?ストーカーでもされているのか?」
彼が凄く心配してくれている。
「チェ・ヨンさん帰って!週刊誌の記者よ。
私とあなたの写真を撮られたみたい。
大丈夫。私は何も喋ってないから。付き合ってないって言ったから。
疑われる前に早く帰って・・。」
彼が驚いた表情をした。
そして怒りの表情に変わっていく。
彼が後ろにいた秘書の人に視線を送ると、その人は携帯電話を出して電話を掛け始めた。
「ウンスここを開けろ。」
「でも・・お願いだから帰ってください。
あなに迷惑を掛けたくない。」
「ここを開けろ!!」
彼に怒鳴られ、ゆっくりとチェーンを開けた。
彼が玄関の中に入って扉を閉めた。
私の身体が強く抱きしめられる。
「何故、俺に早く相談しない。
ずっと一人で抱え込んでいたのか!?
こんなに震えて、泣いて。
俺に迷惑を掛けたくないと、連絡も取らなかったのか?」
「だって、あんな・・キスをしている写真何て公になったら、あなたに・・」
「それくらい対処できる。写真が出回る前に止める事など、雑作もないことだ。」
「そ・・そうなの?」
私は、この人の言葉に安心して身体の力がぬけた。
「チェ・ヨンさん・・・ちょっと座らせて・・」
彼が私の身体を抱きかかえて部屋の中へと入っていく。
部屋の端にあるベットに座らせてくれた。
彼が側に置いてある大きなキャリーケースに視線を落とした。
「家を出ようと?」
「何日かホテルにでも泊まろうと・・・」
「俺はそんなに頼りない男か?
相談も出来ないほど。
信用できない男か?」
「違うの。
私の住んでいる世界と、あなたの住んでいる世界が違い過ぎる。
たかが一般人の私の事でも、記事になれはあなたの生活にも仕事にも影響が出ると思ったの。
あなたに頼って、迷惑はかけたくなかった。」
「ここ数日、ウンスの様子おかしかったから心配だった。屋敷で嫌な思いをしたのではないか。
俺には言わないが、具合いが悪いのではないかって。」
彼は私の肩を掴んで、私の目を真っ直ぐ見つめている。
本当に心配してくれている目だった。
涙が溢れてきた。
本当にここ何日か怖くて、夜もあまり眠れなくて。
それでも何とか仕事に行っていたけど。
もう休みたいほ
心も身体も疲れ果てていた。
彼のスマホが鳴った。
彼は泣いている私の髪を撫でながら通話ボタンを押してスマホを耳に当てた。
「わかった。チャン・ビンに往診を依頼しておいてくれ。本社へ。」
電話が終わって彼がまた抱き締めてくれた。
「先ほどの記者も、そいつの会社も俺のグループが押さえた。
写真が出回る事はない。あいつがウンスの前に二度と来ることもない。」
「こ・・こんなに早く!?」
じゃあ、私がさっさと相談していればこんな事にならなかったんだ。
一人で悩んでバカみたい。
そう思ったらまた泣けてきた。
「ウンス。一緒に行こう。
仕事を途中で抜けて来た。
戻らねばならない。ウンスをここに置いてはいけない。」
彼は私を抱きかかえると、部屋を出た。
何だか涙が止まらなくて、彼の腕のなかでも泣いていた。
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もしものときのためのキャリーケース5選
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